■雨



ああ、それにしても君がほしい。


はじめはほんの挨拶だったのに。

今この星を一人で見るのすら躊躇うなんて。




「後もう一回って、どのくらい?」
「さぁ、まだまだ全然」
「…痛い」
「飽きやしねぇ」


ほんの雨宿りのつもりだった。ガス欠の上雨まで降ってきて、目的地まではまだまだ遠かったが、これ以上進むのは危険だった。止むを得ない不時着。そうそっ と。

久々に二本の足で立つ。重力とは酷いものだ。かれこれ一昼夜飛びっぱなし。消耗しすぎて体中が悲鳴を上げる。
はてさてどうしたものか。海岸までは遠い上に砂の斜面は急で、どうにも休める場所はなさそうだ。雨は止みそうにない。指先一つ動かすのも億劫だ。

「あっ」

足を滑らして、ジャックはひどく体を打ち付ける。

「いつもならこんなはずないのによ…」

背後から笑い声。

「何やってんのさ」
「MZD!」
「ヒサシブリ。おぼえてる?」
今度はジャックが笑う。

もう自棄だとでも云うように、ジャックはその場に荷物を全ておろした。MZDの周りだけ雨が避けていて、水滴一つ付いていない。髪の毛さえ。


「ちょっとそん中入らせてもらえない?」
「やだ」
「相変わらず素直じゃないねー」
「はン」
「さすが神様、まだなんでもお望みどおりにできると思ってんの?」
「ジャック」


ああ、何度でも同じ過ちを犯してしまう。こいつに触れてはいけないのに。その度に死をも覚悟するのに。拒む前に全てが完了してしまう。俺がどんなに拒ん だって、あの赤い目の前には無駄だ。理屈が通じないんだ。俺はいつでも頷いてしまう。アイツはきっと何も信じちゃいないんだろう。自分ですら。髪の先から 汗が滴り落ちる。


MZDが息を漏らす。ジャックが何度も俺の名を呼ぶ。


いつもこの瞬間は忘れる訳がないと思う。信じるのか願うのかもわからない。こんなに震えているのだから、こんなの忘れる訳がないといつも思う。だけど全部 忘れてしまう。

ジャックがMZDの両手首を押さえる。


「アンタがどんな人かなんて知りやしなかったし」

この脈、そしてこの息遣い。


「あぅ」


味わえるのなら今すぐ全て。


「あああ、神様好き好き好き」




ひたすら体液を貪る心地よさ。



           一体次はいつなのだろう。


「お前なんか知らねー…」
「でももう知ってしまった」
「知らねぇし」
「でも名乗ったのはお前からだ」



足元の砂はひんやりとしていて、指でなぞればさらさらと滑り抜ける。雨はいつの間にか上がっていて、満天に輝く夏の星座も終わろうとしている。背後から太 陽の気配。





力を削ぎ取られる。
気力も。
体力も。




海岸に張ったテントも夜露ですっかりびしょ濡れで、ジャックはため息をつく。細かいことは気にしないが、肌も髪の毛も潮をどっしりと含んでいる。乾いた砂 を肌にまぶしてこそぎ落としてみるが、さらりとするのは始めだけで、すぐに汗と疲労がジャックの体中を覆う。



(06/05/08)
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