内面バトル

 

空間が歪む。足を踏ん張れば今度は磁場が歪む。つんざく轟音。青い光。突如、部屋中の調度をなぎ倒され、止まった先にはぴくりとも動かない少年がいた。
乾いた唇。憔悴しきった赤い瞳、背中で激しく息をしている。衣類はボロボロだ。

何者だ?−−

起き上がろうとした少年の頭上に百科事典が落下する。
なんてことだ。眼鏡越しの世界で、MZDは眉一つ動かさずにその少年を見やる。打ち所が悪ければお陀仏かもな…。

「…ッ痛ッてェーーーー!!」
バネの様に少年は何事も無かったかのように起き上がると、聞き取れない絶叫めいた声で、床中に散乱したもの全てに八つ当たり始めた。

「お・・・?」
ゆとりあるポーズをかましたのは失敗だったかもしれない。
少年が深く息を吸い込む。赤い瞳は深紅に爛々と輝き、眼差しは獣だった。
「火ィィィィィイーーーーッ!!!」

360度振りまかれる火炎放射。
おいおい、やってくれるじゃねえか。
先週取り寄せたばかりのソファも透かし入りのカーテンも台無しだ。ムカつかないといえば嘘になる。何はともあれこの闖入者に2,3質問をしてみるとするか。

MZDは残酷な笑いを浮かべ、焦げかけた少年の足元まで近付くと、眉をひそめてこう言った。

「君、名前は?」
少年は答えない。
「名乗るのは嫌か?」
「MZD…」
「ん?」
「…思い出させてやる」


膝下から砂がこぼれ落ちる。
やれやれ、土足は勘弁してもらいたい…が通用する相手ではなさそうだ。喉の奥に転がる笑いをMZDは1人で楽しんだ。

「何を?」

少年の髪の毛がにわかに逆立つ。
左手でマスクを乱暴に剥ぎ取ると、怒りに燃え盛る端正な顔立ちが際立つ。
MZDの名を一音ずつ喉から搾り出して、少年は一直線に近付いてくる。
「MZD−−−−ッ!!!」

やれやれ。どうやらまた厄介なことになったらしい。MZDは脳髄の裏側に神経を集中させる。首筋から這い上がる心地良い神経の愛撫。

来い…来い…もうすぐだ…
眼球の奥に愛撫が達するのと同時に、MZDの両爪先は地面から離れた。

燃える炎はMZDの目の前にある。喉の奥の肉が攣って涙になりそうな様子が手に取るように分かる。戦慄く唇からこぼれる息が彼の激情を物語っていた。

MZDが右腕を伸ばし、少年の額の刻印に手をかざす。ぐらり。糸が切れたように少年がバラバラになる。筋肉のつながりが全て途切れ、ドサと床に落ちる少年。それでもMZDから視線は外さない。
軽く足蹴にしてMZDは微笑む。

「忘れる訳ネーだろ」

廃屋。

Date: 2005/05/02(月)

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